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一枚の田んぼから、未来を耕す

〔写真:権現堂の田んぼ〕


前回、日枝神社での感謝参りのお話を書きました。ひらけた道と、出会えたご縁に、ただ感謝を伝えに行った、あの日のことです。


受け取ったものは、めぐらせて、次の誰かへ渡していく。そう書いた、その「次」の話を、今日は少しだけ。



◇ 曲がりくねった道を、北へ


先日、日光御成街道を、岩槻から北へ、幸手まで走ってみました。


岩槻は、古くからの城下町です。御成街道は、徳川将軍が日光へ社参する際に通った道で、岩槻宿は、その道中で唯一、将軍が宿泊した宿場でもありました。


実際に御成街道を車で走ってみると、この道は、右へ左へとずいぶん曲がりくねっています。まっすぐにしないのは、戦国の世の知恵だと聞きました。道を折り曲げることで、敵の進軍を遅らせる。のどかに見える田園の道に、そんな昔の緊張が、まだ残っているのだと思うと、不思議な心地がしました。


将軍たちも、この道を通ったのかもしれない。そう思いながらハンドルを握っていると、なんとも言えない気持ちになります。土地の記憶というものは、地図や本ではなく、実際にその道を通ったときに、体のほうへ降りてくるのかもしれません。



◇ 権現堂の、一枚の田んぼ


その道の先、幸手市の権現堂。桜の名所として知られる土地です。春になると、堤に見事な桜並木が続き、その足元を、菜の花が黄色く埋めつくします。ピンクと黄色のコントラストは見事で、その季節には、たくさんの人で賑わいます。


今でこそ桜の絶景の場所ですが、この堤は、もともと、洪水から暮らしを守るために築かれたものでした。江戸時代には、周辺の村々が力を合わせ、人を出し、資材を負担しながら、総出でこの堤を守っていたと伝えられています。困難と向き合い続けた場所が、時を経て、人を癒す場所になっている。そう思うと、この土地の来し方に、頭が下がります。


そして今、その権現堂に、小さな取り組みが始まろうとしています。


中心にいるのは、Yさんという方です。

明るく優しい笑顔と、家族のような温かさと深い思いやりのある言葉。思わず応援したくなる誠実な方です。地域の高齢の方々とも、気さくに話をされます。人が自然と集まってくる。そういう、癒しの光を放つ人、と言えばいいでしょうか。


そのYさんが、お父様から受け継いだ田んぼを、もう一度、稲作の場としてよみがえらせようとしているのです。代々続いてきた田んぼでした。それが、しばらく耕されず、夏には葦やススキが背丈を越えるほどに繁っています。


◇ 一粒の稲から


一枚の田んぼ。面積にすれば、決して大きなものではありません。けれど、そこには、たくさんのものが詰まっていると感じます。


自分たちの地域で、食べるものを育てること。眠っていた土地を、もう一度、目覚めさせること。土地を守ってきた人の想いを、受け継ぐこと。そして、人と人が、つながること。


一粒の稲が、多くの実りとなり、人を支えていく。長く土地(不動産)に関わる仕事をしてきた私には、この一枚の田んぼが、ただの農地には見えません。土地は、ただの地面ではなく、誰かが手を入れ、誰かが受け継いで、今に手渡されたものです。田んぼも、同じでした。


そして、もうひとつ、私には持論があります。土に触れると、人は元気になる、ということ。


田んぼでなくても構いません。花を育てる。野菜を育てる。陶芸で、土をこねる。手を土に入れているうちに、なぜか、心が整っていきます。理屈はうまく説明できませんが、土地から——地球から、恩恵をいただいているような感覚が、たしかにあります。


だからでしょうか。この田んぼが、いつか、誰にとっても風の通る場所になればいい、と思っています。何かを抱えている人が、ふらりと来て、ただ土に触れて、黙って草を抜いて、帰っていく。何も話さなくていいし、何も背負わなくていい。それだけの場所。それで何かが解決するわけではありませんし、つらいときには専門の方を頼ることも大切です。それでも、日の光と、風と、土の感触は、きっと、どこかをゆるめてくれる気がします。


◇ 前に立つのではなく


この取り組みの主は、Yさんです。土地の主であり、この8年の間、不耕作となってしまった田んぼの再生を進める中心人物。


私は、その挑戦を、応援し、見守る立場で関わらせてもらっています。前に立って引っ張るのではなく、必要なときに、できることを持ち寄る。それぞれが、自分の持ち場で力を発揮しながら、支え合う。そんな形が、いちばん永く続くのだろうと思っています。


急がず、無理をせず。まずは草を刈り、畦道を確かめ、隣の土地に迷惑をかけないことから。完成形を、今はまだ決めていません。まず、やってみる。育ててみる。一緒に食べてみる。その積み重ねの中から、本当に必要なことが、見つかっていくのだと思います。


◇ 水の波紋のように


先日、その田んぼの前で、静かに、言葉と想いを置いてきました。


この土地に、感謝を。ここまで受け継いでこられた方々に、感謝を。そして、ここから、優しい気持ちが、水の波紋のように、静かに広がっていきますように、と。


一枚の田んぼが実ったからといって、世の中が変わるわけではありません。それでも、一人が元気になり、その人とつながった誰かが元気になり、めぐって、少しずつ広がっていく。


そういう小さな波紋を、私は信じています。


受け取ったものを、抱え込まずに、次へ。せき止めず、濁らせず、めぐらせていく。


一枚の田んぼから、未来を耕す。その小さな一歩を、静かに見守っていきたいと思います。



今日も、心に光を。


T.Matsunaga

Founder & Representative / Best Brillanz


Best Brillanz(ベストブリランツ)は、浦和美園を拠点に「心豊かに生きる」ための場とつながりをつくっています。

 
 

埼玉県さいたま市緑区​美園4丁目17-17 2F 豊かな心ラボ内

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